719.人が人に触れるということ
2023.01.24
ブログを読んで下さるみなさま、いつもありがとうございます。六本松地区で開業していますまつばら心療内科の松原慎と申します。
医師があまり患者に触らなくなった、と言われるようになって久しいかと思います。心療内科医としては、心の面も体の面も大切にしています。心身医学の先輩からその重要性を学んできたことは当然ではあります。しかし、福間病院の顧問として長く教鞭を執られ、その前は福大教授、精神分析の権威だった西園昌久先生は、精神分析というツールを持ちながらも、医師として患者に触れて診察することを教えてくれました。分析の権威の精神科医でも身体所見や触れる診察を大切にしているというのは、直に教わってみてとても新鮮でした。
画像診断技術が高まり、CTやMRIを撮ればたちどころに異常所見が分かる便利な時代になりました。
しかし一方で、肩の凝りであるとか、肋間の柔軟性が悪化しているだとか、関節の可動域が緊張によって変化しうるなどは、実際に触って、また触りながらリラクゼーションの指導を入れたりして始めて分かることもあります。
最近は、何かとハラスメントという言葉が横行するため、他人の琴線にも、体にも安易に触れない風潮になり、まるで「触れないことが良いこと」であるかのようにすら感じられます。
果たしてそれで、私達は正しい方向へ歩んでいるのでしょうか?
もちろん、無許可に触ることはいけませんし、不愉快な触れ方もいけないでしょう。
しかし、私は思うのです。だからといって触ることが良くないとか触れないことがより良いというのは違うのではないかと。
むしろ、許可を取り、尊重的な態度で、確かな技術を持って触れていく。そして、相手に触れる時の思いやりのある触れ方、技術のある触れ方、というのを、技術を持つ人が後進に正しく伝え、ゆっくり、やさしく、丁寧に触れていくようなことが家族や恋人の間で当たり前になっていく方が、望ましいのではないでしょうか。
触られたくない時にまでベタベタする必要はありませんが、触れた方が良い時、触れるべき時に、きちんと触れていく、ということの方がむしろ大事ではないかと思っています。