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974.悶絶

2023.10.13

 ブログを読んで下さるみなさま、いつもありがとうございます。六本松地区で開業していますまつばら心療内科の松原慎と申します。

 世間は、藤井聡太竜王名人の八冠王で湧き上がっているようです。個人的には今後、藤井聡太さんの永世称号が増えるばかりと予想するので、後1期だった永瀬王座に名誉王座の機会に挑戦してもらいたかったです。羽生七冠の時は、阪神淡路大震災で被災した谷川王将が意地を見せて跳ね返し、翌年、6冠全部防衛した羽生が再挑戦するというストーリーでしたから、その再現でも良いだろうし、そんなに簡単に八冠になるより、まだかまだかという騒ぎが1年延びた方が良かったような気もします。
 スコアこそ3-1奪取でしたが、内容的には、第3局も第4局も永瀬王座の優勢な局面があり、藤井竜王・名人をこれほど追い込んだのは永瀬王座だけと言っても過言ではありません。

 そういう意味では、永瀬王座が勝っても不思議ではありませんでしたし、永瀬さんにはそれに値する試合をしていました。しかし将棋は残酷、最後に間違えた者が敗れるゲーム。致命的ミスをした後、竜王名人が許してくれるわけはありません。

 内容も圧倒し、時間も途中3時間差、全て永瀬王座のプラン通りだったと思われますが、それでも藤井聡太竜王名人に勝つのは至難の業なのか(ほぼ無理ゲー)、と思わされるような試合でした。というか神様の「設定」によって永瀬王座がミスをすることになっていたかのように、八冠制覇への道は、強敵が転ぶ形であっさり道が開きました。

 もちろん、私はプロ棋士ではないですし、評価値を鵜呑みにして、解説者のまねごとをするのも控えた方が良いとは承知しています。

 最後の大握手を一手ばったりというのですが、これに気づいた後の永瀬さんの悶絶。
 両手をギュッと組み締めたり、頭をかきむしったり、天を仰いだり、自分の頭を叩いたり。

 すさまじい勉強量で挑戦者を追い詰めたこと、プラン通りだったこと、それをアマチュアのような手を指して台無しにしたこと、永世称号は当分難しくなったこと、とうとう無冠になること。彼のように人格的にも良く修行されている人が、私がいま挙げたような俗世的な「悔しさ」にまみれていたかは分かりません。単にプロとして失着した自分が許せなかったのかもしれません。
 そこは憶測するしかありませんが、これぞ、人対人の将棋。命を削り、魂が磨耗するほどのぶつかり合いの中での、失着への悶絶。永瀬王座の本心がどうだったかは分かりませんが、この苦悶にこそ私は心打たれました。
 そして、泣きたいほど悔しいはずの敗者インタビューでも、藤井さんに教えて頂いた、また一つ一つ頑張りたい、といつも通り謙虚なコメントを見せたのでした。
 もちろん、将棋名人400年来最強であろう、藤井聡太さんの活躍は私も心から応援しています。

 しかし、私は、スコアこそ3-1ながらも、ここまで内容で藤井竜王名人を追い詰め、競り合った、すさまじい努力と、その後の悶絶の人間模様を見せてくれた永瀬王座にこそ、心から拍手を送りたいと思います。そして、永瀬九段の今後の奮起と活躍を温かく応援して行きたいと思います。

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