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1142.戦争は本能ではない

2024.03.29

 ブログを読んで下さるみなさま、いつもありがとうございます。六本松地区で開業していますまつばら心療内科の松原慎と申します。

 第二次大戦の暗黒が終わった時、勝った方も負けた方も、殺傷の多さという暗さに苛まれました。
 そこに光を投じたのが戦争本能説といいます。
 戦いは昔から人間とともにあり、究極の平和解決の手段とする説です。この説は戦争を肯定するような考えに導き、犠牲者の痛みを思う気持ちを軽減させました。
 しかし、霊長類学者の山極寿一先生によれば、それは間違っているのだと言います。

 700万年前に人類は、チンパンジーとの共通の祖先と分かれました。以後、人類の祖先はゴリラ並みの小さな脳で植物性の食物を採集していたと言います。脳が大きくなり始めるのは200万年前で、狩猟具としての槍が出てくるのが50万年前と言います。現代人、ホモサピエンスは20万年前からの出現で、それまでは集団猟で大型の獲物を捕らえることは出来なかったようです。つまり、狩猟は人類進化を牽引したエンジンではないというのです。

 集団間の戦いの証拠が出現するのは約1万年前の農耕の出現以降であり、日本では弥生時代からと言います。そんな短い期間に戦争本能などという性質が遺伝的に定着するわけがないから、戦争本能説は根本的に間違っているというわけです。

 人間の戦いはつい最近まで類人猿と同様に性的なトラブルに発端することが多く、未然の抑止や第三者による調停が可能だったと山極先生は考察しておいでです。

 ネイチャーという有名な雑誌に投稿された人類学者ゴメスの論文によりますと、前哺乳類の80%の科を対象として、種内暴力により死亡した割合を系統比較したところ、哺乳類全体では0.3%であり、霊長類とネズミやウサギの共通祖先になると1.1%、霊長類とツパイの共通祖先になると2.3%に上昇します。跳ね上がる理由は霊長類が集団で連合を組んで暮らし始めたためと言います。
 類人猿の共通祖先では1.8%、ホモサピエンスの祖先も2.0%と他の霊長類と変わらないのに、新石器時代になると急上昇し、特に3000年前の鉄器時代以降は15~30%にも上ると言います。

 この結果は、人間の暴力や戦争が新石器時代以降の文明によって極端に増加したことを示していると言います。つまり、人間は暴力を用いて平和や秩序を作る動物ではないわけで、私たちは戦争本能説を唱える政治家にそれを利用されないよう、目を光らせている必要があります。

 この興味深い記事は、「ゴリラに学ぶ男らしさ」(山極寿一著:ちくま文庫)の一部から抜粋して紹介させて頂きました。

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